私たちの暮らしに笑顔をもたらしてくれる大切な家族の一員であるペット。残念なことに、ワンちゃんたちペットの寿命は私たちの寿命よりもたいていは短く、いつかお別れをしなくてはならない時がやってきてしまいます。
大切なペットを亡くすことにより、飼い主の方々が受ける衝撃と悲しみはとても大きく、心身に影響を及ぼすことがあります。このように、ペットを亡くしたり、離れ離れになることにより、心身にまで影響が及ぶことをペットロスと呼び、社会的にはかなり認識されるようになりました。
このペットロスには個人差があり、人によっては実際に健康を害し、病気になってしまうことがあります。このような病気はペットロス症候群と呼ばれ、治療が必要になる場合もあるようです。
では、ペットロスによる悲しみを少しでも軽減するためには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか?今回は、イスラエルの研究論文“犬を飼っている人と、犬を亡くした人における生活の質(QOL)・ストレス・健康・社会的サポートの関連性”をもとに、ペットロスとその対応についてお話しさせていただきます。
ペットロスと生活の質(QOL)、ストレス、社会的サポートの関連性
上述したイスラエルの研究では、イスラエルに住む健康な女性のうち、2年以上犬を飼っている飼い主110名(飼育グループ)と、最近、安楽死により愛犬を亡くした飼い主103名(安楽死グループ)を対象に、QOLとストレス、健康状態、社会的サポートなどについて調査を行いました。
研究対象者を女性に限定した理由は、過去の研究結果は女性を対象としたものが多く、女性の方が調査対象になりやすいためです。
飼育グループは、2年以上犬を飼い、2年以内に他の犬を亡くした経験がない女性飼い主とし、安楽死グループは、最近安楽死により飼い犬を亡くし、安楽死から4週間以内にインタビューすることが可能だった女性飼い主としています。ただし、インタビューまでの間に新しい犬を飼った女性は対象から除外しています。
安楽死グループの対象者を集めるため、イスラエルに所在する全動物病院48軒に連絡を取り、研究に参加してもらえる適当な飼い主の方々を探しました。ブリーダーさんなど、ビジネスで犬を飼養している方は対象外としました。
各対象者の
- 社会的状況(家族構成や居住地、就労状況など)
- QOL
- ストレス状態
- 健康状態(体重や活動量、喫煙状況など)
- 社会的サポート(友人や家族、他の人々からのサポート)
について、対象者へ質疑応答を行いました。
QOLは、
- 身体的QOL(睡眠状況や身体機能状況、仕事についてなど)
- 精神的QOL(ポジティブフィーリングやネガティブフィーリング、自己評価など)
- 人間関係的QOL(家族や友人との関係など)
- 環境的QOL (経済的状況や家庭環境、自由性、安全性など)
の4つのカテゴリーに分類し、他の状況との関連性を調査しています。
調査の結果、対象者の多くは無宗教、就労者、非喫煙者で、体重は標準範囲内、週に2~4回スポーツを行う方が多く、経済的に安定した飼い主の方々でした。また、飼育グループにおける既婚者は47.7%、安楽死グループにおける既婚者は64.1%でした。子供が同居している割合は、飼育グループでは52.7%、安楽死グループでは27.5%でした。
年齢が40歳以下である女性の比率は、飼育グループが60.6%、安楽死グループは40.2%でした。安楽死グループの飼い犬の死因は、89.3%が病気のため、9.3%が事故のためでした。安楽死グループの平均飼い主歴は14年、飼育グループの平均飼い主歴は6.3年でした。
安楽死グループにおける飼い主さんのストレスは、飼育グループにおける飼い主さんのストレスよりも非常に高く、身体的QOLと精神的QOL、人間関係的QOLは、飼育グループのほうがとても高いという結果が得られました。また、安楽死グループでは、家族や友人、その他の人々からの社会的サポートを受けることにより、QOLは向上したという結果もみられました。
これまでの研究で、40歳以上のペットを飼っている女性と飼っていない女性では、感情の変化が異なるという結果が報告されているため、イスラエルの研究では、40歳以上の女性におけるQOLの違いを調査しましたが、各グループにおいて大きな違いは認められませんでした。
さらに、高齢者がペットを失くした時のストレスは非常に大きいことが、過去の研究で明らかにされていますが、イスラエルの研究対象女性の最高年齢は65歳だったため、高齢者についての結果は得られていません。
親族の死に直面した人に対する社会的サポートがどれほど重要かということは、これまでの研究で明らかにされていますが、ペットの死に対する社会的サポートの重要性については明確にされていません。しかし、このイスラエルの研究結果から、ペットを失くした方々が抱えるペットロスによる悲嘆は、家族や友人、他の人々から適切なサポートを受けることにより、軽減されると考えられます。
ただし、ペットを飼ったことのない人や、ペットの死に直面したことのない人など、ペットの死に対する見解には個人差があるため、十分なサポートを得ることが難しい場合もあるようです。また、高齢の方や子供では、愛犬との別離によるストレスはすこぶる大きくなることがあるため、特別なケアが必要と考えられています。
アメリカでは、ペットロスサポートグループ(特に、高齢者を対象としたグループ)やホットラインを設立している動物病院や大学付属病院があり、ペットを失った飼い主の方々をサポートしています。また、動物病院によっては、安楽死を行った次の日に飼い主の方に電話連絡を取ったり、ペットを失った飼い主の方にお悔やみの手紙を送ったりという、獣医師の新たな役割が支持されはじめています。
オーストラリアでのペットロス
オーストラリアでは、たくさんの人がペットと暮らし、ペットと人との絆はとても深いように思います。
しかし、オーストラリアの動物病院では日本の動物病院よりも安楽死を行う機会がとても多くあります。日本では、おそらくまだ治療を続けるであろう関節炎などに罹った動物に対しても、オーストラリアでは、動物のQOLを尊重するために安楽死を選択する飼い主さんが多く見受けられます。
これは、動物のQOLに対する価値観が日本とオーストラリアでは異なるためではないかと考えています。また、オーストラリアの動物病院では手術費・治療費がとても高いため、治療すれば良化する可能性のある動物に対しても早期に安楽死が選択されてしまうことがよくあります。
ペットの安楽死後、ペットロスに悩まされる飼い主さんがしばしば見受けられます。オーストラリアにも、少数のペットロスホットラインは設置されていますが、動物病院でのサポートは非常に少ないと思います。しかし、家族や友人から大きなサポートを得られる方が多く、ペットロスを克服されている方がほとんどのようです。
最後に
ペットと別離の時を迎えてしまったら、悲しみを一人で抱え込まずに、ペットロスのプロフェッショナルカウンセラーなどに相談したり、ペットに対する価値観が似ている友人や家族からサポートを受けるなどして、ペットロスの悲嘆を軽減することは大切です。また、高齢者や子供がペットを失った時の悲しみは、周囲の人々が予想するよりもとても大きいものかもしれません。そのため、より深い社会的サポートが受けられるような配慮が必要でしょう。
参考文献およびURL
- Lilian Tzivian, Michael Friger, Talma Kushnir,. Associations between Stress and Quality of life; Defferences between Owner keeping Living Dog or Losing a Dog by Euthanasia.
- コーネル大学、ペットロスサポートホットライン http://www.vet.cornell.edu/Org/PetLoss/
- ペットロスサポートグループ“Chance’s spot” ペットロスホットライン http://www.chancesspot.org/hotlines.php
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