犬を飼い始めると、市町村に登録をしなければなりません。そして、年に1度の狂犬病予防注射が義務付けられています。
では、どうして狂犬病予防接種は大切なのでしょうか?
狂犬病とは
狂犬病は、狂犬病ウイルスにより脳脊髄炎を起こす感染性の病気です。狂犬病ウイルスは、犬や猫、コウモリやキツネ、人などすべての哺乳類に感染しますが、このウイルスを伝播するのは主に犬と考えられています。
狂犬病ウイルスに感染すると、感染動物の体内で増殖した後、唾液中に排泄されます。そして、感染動物(おもに犬)が他の動物や人を噛むことにより伝播します。感染した人から他の人へ感染することはありません。感染した犬が症状を発症するまでには通常2週間から2ヶ月間かかります。
しかし、症状を示す約2週間前には、すでに感染犬の唾液中に狂犬病ウイルスは排泄され、感染を広める危険性があります。
狂犬病予防接種をしていない犬が狂犬病に感染すると、まず行動の変化が表れ(暗所に隠れたり、攻撃的になったりします)、その後、興奮状態になったり、全身の麻痺を起こしてほぼ100%の犬は3~6日で死亡します。狂犬病に対する効果的な治療はありません。なお、日本では、狂犬病感染が確認された時点で、その犬は直ちに殺処分されてしまいます。
また、狂犬病に感染した犬に人が噛まれると、興奮や麻痺、呼吸困難を起こし、死亡してしまいます。(狂犬病に感染した人に対する効果的な治療法はありません。)
日本と世界の狂犬病
1950年以前の日本では、多くの犬と人が狂犬病に感染して死亡しました。その後、狂犬病予防接種が義務付けられたおかげで、1957年以降には日本で発生した狂犬病による死者はでていません。(ただし、2006年にフィリピンで犬に噛まれた日本人2名が狂犬病感染のため日本帰国後に死亡しています。)しかし、世界各地では狂犬病は今も猛威をふるい続け、年間約55,000人が狂犬病に感染して亡くなっています。
狂犬病予防注射
狂犬病予防注射は、生後91日齢以上になってから受け始めます。その後は、年に1回の注射を受けます。狂犬病予防注射は、集合注射もしくは動物病院で受けることが可能です。
狂犬病予防接種の義務
狂犬病が清浄化された現在の日本でも、狂犬病予防接種は狂犬病予防法という法律で義務付けられています。これは、世界での狂犬病発生は今も続いており、海外からいつ狂犬病が持ち込まれても対処できるよう、日本の犬と人を守るために継続されているのです。
狂犬病予防注射接種を怠ると、20万円以下の罰金を支払うよう法律で定められています。可能性はとても低いかもしれませんが、もし我が家の愛犬が狂犬病に罹り、殺処分になってしまったら、そして他の犬や人々を何匹も何人も死亡させてしまったら・・・。犬と人がうまく共存していくために、危険な感染性疾患をコントロールすることはとても大切です。
狂犬病予防注射実施猶予証明書
高齢犬や重篤な疾患に罹患している犬や、これまでの狂犬病予防注射で重度の副作用を示した犬などについては、狂犬病予防注射を受けなくても法律で罰せられないよう特別な手続きがあります。
まず、動物病院で狂犬病予防注射を受けられない状態かどうかを判断してもらいます。獣医師の判断により狂犬病予防注射を回避する場合には、獣医師に“狂犬病予防注射実施猶予証明書”を記載してもらい、役所に提出します。
参考文献およびURL
- Richard W.Nelson.,C.Guillermo Couto et .Small Animal Internal Medicine. 3th ed. Mosby. 2003.1016
- 笹原二郎ら、獣医伝染病学、第3版、近代出版、1989、277-80
- 厚生労働省 狂犬病 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
- 厚生労働省 狂犬病予防法 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO247.html
- 日本獣医師会 狂犬病集合予防注射実施のためのガイドライン http://nichiju.lin.gr.jp/kousyu/pdf/h08_kyouken.pdf
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