獣医監修コラム集

犬の栄養と繁殖への影響 ~摂取カロリーが出生数と子犬の性別に影響?~

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犬の栄養と繁殖への影響

愛犬が毎日を元気に過ごすためには、バランスのよいダイエット(ごはん)を摂取することが大切です。犬に必要な栄養素は、6大栄養素である蛋白質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラル、水になりますが、各栄養素の必要量は、子犬、成犬、妊娠中の犬や泌乳中の犬、高齢犬など各ライフステージにより異なります。

アメリカのAAFCO(米国飼料検査官協会)が提示する成犬の蛋白質必要量は18~25%、脂肪必要量は10~15%です。脂肪の摂取が不足すると、繁殖機能が低下することが明らかにされています。ある研究によると、繁殖の2週間前からメス犬に動物性蛋白質を主とした蛋白質含有量30%および脂肪含有量20%のダイエット(ユカヌバ、パフォーマンスフォーミュラ)を与えたところ、流産率と死産率は低下し、サイズの一定した子犬が産まれたという報告があります。

このように、妊娠前の栄養バランスは妊娠や生まれてくる子犬に影響を及ぼすと考えられています。
ここでは、コヨーテを対象とした栄養と妊娠、出産に関するいくつかの研究が報告されていますので、ご紹介させていただきます。

コヨーテについて

コヨーテは、北アメリカやカナダに生息するイヌ科イヌ属の哺乳類で、イエイヌ(一般的な犬)やオオカミ、キツネの仲間です。体重はおよそ11~16Kg、一夫一妻制をとり、繁殖期は年に1回(冬)で、春(4月ごろ)に子供を産みます。妊娠期間は犬と類似し、約62~65日間で、1回に4~7匹の赤ちゃんを生みます。

コヨーテのいろいろな研究

栄養状態と排卵
コヨーテがたくさん住んでいる地域では、捕食が難しくなると考えられ、排卵率は50%未満となり、コヨーテ生息数が低い地域では、捕食が容易になると思われ、排卵率は80~100%という調査結果が得られています。

また、これまで出産経験のないコヨーテは、コヨーテ密度が高く社会的ストレスの多い地域で出産すると赤ちゃんの数は少なくなるという研究結果が報告されています。

妊娠期のダイエットと着床持続率
妊娠期のダイエットは着床持続率や子のサイズに影響を及ぼすことが明らかにされています。維持量よりも多いダイエット(約170%)を与えた際の着床持続率は75%、適量のダイエットを与えた場合の着床持続率は65%、維持量よりも少ないダイエット(約70%)を与えた際の着床持続率は35%と報告されています。
カロリー摂取制限による繁殖への影響について
アメリカのユタ州で、コヨーテを対象にした、カロリー摂取制限による繁殖への影響を調査する研究が行われました。この研究では、ワイルドライフセンターで生まれ育った11頭のメスのコヨーテが、妊娠前6ヶ月間に高カロリーダイエットと低カロリーダイエットを摂取した際の、出生率や子の体重、成長率、性別などについて2年間に及ぶ調査を行っています。

11頭のメスのコヨーテを二つのグループに分け、グループ1には調査1年目に高カロリーダイエット(メインテナンス量の110%量)、2年目に低カロリーダイエット(メインテナンス量の65%量)を投与しました。グループ2には、調査1年目に低カロリーダイエット、2年目に高カロリーダイエットを投与しました。繁殖期中の行動を観察し、生後3日、2週間、6週間時における子の数と体重、性別を調査し、最後に開腹手術を行い子宮内の着床痕数(受精状態)を確認しました。

妊娠6ヶ月前のダイエット変化による、発情時期や繁殖行動、分娩時期への影響はみられませんでしたが、低カロリーダイエットグループのコヨーテでは、出産した子の数が若干少なくなりました。(20%の差異)これは、排卵率や受精率が低下したためと考えられています。

生後3日目の体重は、二つのグループ間で顕著な差異はみられませんでしたが、生後2週齢目の体重は、低カロリーダイエットコヨーテの方が若干大きくなりました。しかし、生後6週目には、二つのグループ間で大きな差はみられませんでした。

高カロリーダイエットを摂取したコヨーテでは、オスの子を生む確率が若干高くなりました。(27%)ただし、調査2年目に高カロリーダイエットを摂取したコヨーテでは、そのような変化はみられませんでした。これは、1年目に低カロリーダイエットを摂取した影響が2年目まで継続したためと考えられています。

この研究から、妊娠前のカロリー摂取量は、子の出生数や性別の決定に影響を及ぼすこと、また、その影響は最低2年は継続することが推測されます。

最後に

これまでの研究から、妊娠前の社会的ストレスや栄養状態は排卵や受精、出生数、性別の決定に影響を及ぼすと考えられます。ただし、妊娠前の一定期間に高カロリーを摂取するとオスの子が増えるという説に関しては確証されていないため、今後、さらなる研究が必要でしょう。

元気な子犬をたくさん生むためには、飼い主の方やブリーダーの方は、ワンちゃんにとってストレスのない、もしくは少ない環境を整え、妊娠する前から妊娠に必要な栄養バランスのダイエットを適量提供することが大切のようです。

参考文献およびURL

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ルール久枝

投稿者の記事一覧

1995年に獣医大学を卒業後、馬と小動物の臨床獣医師に従事。2002年にオーストラリアへ移住し、日本とオーストラリアで獣医業および獣医翻訳業に勤しむ。2011年からはオーストラリアで動物の代替診療を行っている。

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