現代医療は日々発展し続け、いろいろな病気や怪我を治療することができるようになりました。しかし、現代医療だけではすべての病気を治したり、マネージメントすることは難しいのが現実です。そのため、補完・代替医療と呼ばれる医療が普及し、補完・代替医療と現代医療を組み合わせた統合医療が発展しつつあります。
補完・代替医療という言葉を使うと、とても難しく聞こえるかもしれませんが、私たちにも親しみのあるマッサージや鍼灸などによる、現代医療とは異なる治療を用いた医療をこのように呼んでいます。アメリカでは、補完医療と代替医療は正式には分類されており、現代医学による治療(投薬や手術など)を補うための医療を補完医療、現代医学とは異なる治療を独自に行う医療を代替医療と呼んでいます。
オーストラリアでは、マッサージや鍼灸、カイロプラクティック、ホメオパシーなどの治療は正式には補完・代替医療もしくは補完医療という名称が定められていますが、一般的には代替療法などと呼ばれています。
オーストラリアで普及している動物の補完・代替医療には、鍼灸、カイロプラクティック、マッサージ、ボーエンセラピーなどがあります。ここでは、動物の鍼灸についてお話しさせていただきます。
動物の鍼灸
最近、オーストラリアでは動物、特に犬や猫の鍼灸がとても普及しています。私の住む西オーストラリア州の多くの動物病院には最低1人の動物鍼灸師がいるほどになりました。
では鍼灸とは、どのような治療法なのでしょうか?
人と同じように、犬や猫、馬など動物の体表面にはたくさんの経穴(ツボ)があります。経穴を刺激することにより、身体を正常な状態に戻そうとする作用が働き、治癒促進効果や抗炎症効果が得られると考えられています。経穴の数や部位については、各書物により内容が若干異なり、1988年に出版された“中国獣医鍼灸学”には、犬の経穴は76箇所、、2001年に出版された“Veterinary Acupuncture(獣医鍼灸学)”には、犬の経穴は136箇と記されています。
経穴の解剖学的構造や鍼灸の作用については、完全に解明されてはいませんが、現在のところ、経穴には4種のタイプがあること、鍼灸の作用には皮膚の電気抵抗が関連していること、などがわかっています。また、経穴が刺激を受けると、神経を介して脳まで伝わり、脳がその刺激に対する反応の指令を出すことにより、治癒促進効果などが得られると考えられています。
動物の鍼灸もしくはレーザー鍼灸治療(鍼の代わりにレーザーを使って経穴を刺激する療法です)を行うようになって17年になりました。これまで、たくさんの動物を治療し、時には驚くような鍼灸治療の効果をみてきました。
最近のレーザー鍼灸治療でとても効果を示した症例をご紹介します。
レーザー鍼灸治療の症例
バーニーズマウンテンドッグ、3歳、雄のクッキー君は胃捻転のため大手術を受け奇跡的に助かりましたが、胃の70%が壊死しており、脾臓も摘出しなくてはならない状態でした。手術は成功したものの、毎食後に嘔吐を繰り返し、体重は30キロ代にまで落ち、いつでもおなかが空いているために重篤な異食症(食べ物以外のものをなんでも食べてしまう病気です。)になってしまいました。また、貧血も起こしていました。
手術から8ヶ月後に、飼い主さんからの依頼を受けてレーザー鍼灸治療を始めたところ、3カ月後から嘔吐の回数が減り、体重が少しずつ増え始めました。治療を開始してから6ヶ月後には、ほとんど嘔吐することはなく、体重は大方もとに戻り、異食症はだいぶ改善されました。鍼灸治療を開始してから1年、現在も定期的に鍼灸治療を続けていますが、今ではまったく嘔吐することはなく、すこぶる元気に過ごしています。
他の症状にも効果のあるレーザー鍼灸治療
レーザー鍼灸で治療することが一番多いのは関節炎です。股関節や膝関節などの炎症や痛みを緩和する効果が期待できます。関節炎には、抗炎症薬による治療が効果的ですが、何年にも及ぶ慢性の関節炎に対しては薬が効きにくくなります。そのような症例にも鍼灸治療は効果を発揮することがあります。ただし、薬のような速攻的かつ劇的な効果ではありません。
その他、皮膚病や腫瘍(癌)、神経麻痺、椎間版ヘルニア(軽度~中程度の症例)、十字靭帯損傷(軽度~中程度の症例)、様々な内科的疾患、免疫機能のアップなどに効果が期待されます。
次回は、「マッサージ」についてお話させていただきます。
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